課題解決事例 YXR7のダイの寿命アップ

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お客様の課題

コーティング処理したダイが約5000ショット打つと刃部側面に縦筋のキズが入ってしまう。寿命を延ばしたい。

解決の内容・施策

「YXR7」とは

「YXR7」は、旧日立金属(現株式会社プロテリアル)が開発した、優れた特性を持つマトリックスハイスに分類される高速度工具鋼です。ハイス鋼(高速度工具鋼)は、その名の通り、高速での切削加工や高負荷が繰り返し加わる金型などに使用される高性能な工具材料であり、耐熱性、耐摩耗性、そして靭性(粘り強さ)を兼ね備えています。

YXR7の主な特徴


マトリックスハイスとしての特性


YXR7は、従来のハイス鋼の組成をベースに、特定の元素(例えば炭素など)の含有量を調整し、熱処理によって得られる微細な組織を最適化することで、高い靭性を持ちながらも優れた耐摩耗性を維持するよう設計されています。
プロテリアルのウェブサイトでは、YXR33について「高靭性マトリックスハイス。高温強度が高く、耐熱間摩耗性、耐溶損性に優れる。温・熱間精密鍛造型、ダイカスト用鋳抜きピンなどに適用される」と説明しています[^1]。YXR7もこのカテゴリに属し、耐衝撃性が必要な用途での工具寿命向上に貢献します。

優れた耐摩耗性と靭性の両立


一般的に、工具鋼は硬度を上げると脆くなりやすく、靭性を追求すると摩耗しやすくなる傾向にあります。しかし、YXR7は、ロックウェル硬さでHRC62~65程度の高い硬度と、それによってもたらされる優れた耐摩耗性を維持しつつ、同時に優れた靭性も持ち合わせています。このバランスの良さが、過酷な使用条件下での工具の欠けや割れを防ぎ、安定した生産を可能にします。

主な用途


その優れた耐摩耗性と靭性のバランスから、YXR7は以下のような厳しい条件で使用される金型や工具に広く採用されています。
・冷間鍛造型、冷間プレス型: 高い面圧と衝撃が繰り返し加わる鍛造やプレス加工において、型の寿命を大幅に延長します。
・転造ダイス、ロール: 高い耐摩耗性と同時に、加工時の高い負荷に耐える靭性が求められる用途です。
・パンチ、ダイ:シャーリングや打ち抜き加工などで、高硬度と耐欠損性が要求される部品。

【参考】
[^1]: 株式会社プロテリアル.閲覧日: 2025年6月19日. (https://www.proterial.com/products/tool_steel/techinfo/hottool/01.html)

縦筋のキズが発生した要因


当社で現物を確認したところ、
・母材の強度が足りない
・コーティングの密着性が悪い
などの理由がキズの発生原因だろうという結論に至りました。加工条件が過酷な場合は、今回のようなキズが発生する場合があります。
刃部のキズをそのままにしておくと製品に転写されてしまう為、不良となってしまうので、キズの発生を抑える必要がありました。

解決策

そこで当社は、従来のコーティングを行う前処理としてラスター処理を提案しました。
金型の表面にラスター処理による硬い中間層を作ることで、コーティングの密着性を向上させることが可能です。

ラスター処理のメリット


ラスター処理は、化合物層を形成せず、拡散層のみを作ることで、金型の表面光沢を保ちながら耐久性を向上させることができる、プラズマ窒化の革新技術です。
当社が行った試験で母材とコーティングの密着性が2.8倍上がったというデータがあります。

ラスター処理が化合物層を作らない理由


ラスター処理では、特定の処理条件と制御された環境で窒素を導入し、化合物層の形成を避け、金属の表面に窒素を拡散させるのみとします。これにより、拡散層のみが形成されます。

効果・メリット

ラスター処理を行った結果、約20000ショットまで持つようになりました。(従来の4倍)
また、15000ショットの段階であれば、再研磨を行うことが出来、再研磨品としても使用できるようになりました。
従来のコーティング膜はそのままで中間層としてラスター処理を使用することで膜と母材の密着を高めたために長寿命化を実現した事例です。

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